２０１０．４．１４．

　来週には、役所の提案によるイベントが待っている。

　中学二年。―――昔でいうところの成人する年齢。

　…成人後、もういっかい子供やってますけどなにか？　

　――そのカミングアウトをすることは、まあ中学ではまずないな。

　逆行してきた健二は心だけで呟いた。

「――１４歳の今の自分が、将来なりたいと思う自分を書いてきて下さいね」

　ゆるいスーツを着た担任が皆に向かって喋っていた。

　黒板には、今週の宿題。

『将来の夢』

　先生。少しななめですよ？―――文字。

　今さらな宿題にブーイングするクラスメイトと気持ちは同じ健二だった。

　内蔵されてるワープロソフトを立ち上げて、「将来の夢　二年一組５番　小磯健二」と打ってみた。

　……。

　………。

　将来のゆめ、ねえ。

　小首を傾げた後、健二はその宿題を書き始めた。

　そして、二十分後。

　出来上がったそれを読み直して、健二は判断した。

「……だめだこりゃ」

　没だ没。

　プリントアウトする前に消しとこう。

　こんなものを提出したら、職員室呼びだし必至だわ。

　目立たずに行こう。――そうしよう。

　珍しい健二の気まぐれによって本音で書いてみたお題への回答文は消去された。

この問いへの自分なりの解答を考えてみました。

　将来を定義せよと言われた中学生が、漠然とした未来と答えることが普通なのであり、その解答を視認する形にすることで、一年後、三年後、五年後、――訪れるべき未来の足がかりとする初手であるということも理解しているつもりです。

　ですが、私自身の答えは簡単に出てしまっているのです。

　私は愚かな挑戦者です。ただ誰よりも、その明日を細かに想定することが出来ると言うだけの愚者でしかないのです。

　私はそのことを誇りに思います。

　私はそのことだけを、誇りにすることが出来る幸せな愚者です。

　今の私は、彼女を救うための挑戦者です。

　知らなかったことに努力することを良しとしました。

　命を救うために医学を学び、世界の箱庭を守るためにシステムを構築する。

　私にとっての未来は過去に経験したそれであり、それを追随せぬために私は現在にいるのです。

　私に夢はありません。

　私には現実に挑むべき課題しか残されていません。

　全ての事が成ったあとで、私はゆっくりと答えを探そうと思います。

　彼の人の傍で学びながら。

　私の答えは保留とさせていただきます。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　」

　おれ、文系どうも苦手なままなんだよね。

　タイムカプセル的に中二病の頃の自分を、証拠物件として残させるという×ゲームのようなあれを。

　そして、逆行健二さんだったら、どんなことを文に書くのかなと思ったわけです。

　文章が硬いのは、彼が実質定年前の親父だからです。

　すでに２０１０年に向けて励んでいる健二さんにとっては、将来の夢は無いのですよ。

[3回]