「飼う人」　　　☆　　　
                        　佐久間＋健二

佐久間敬は、困った人間を１人飼っている。

大学生で数学が命で、それさえあれば飯も風呂も睡眠すらもいらないという。困った生き物。

「おーい。うちの子しらね？」

　数研をのぞきこめば、見知った白衣の男どもが、一角を指差した。

　今日もうちの子は風呂に入りそびれたらしい。ぼさぼさのはねた髪が天使のわっかを描いていた。

「あれ、今日の飯たべてた？」

　苦笑するように連中が首を横に振る。

　やはり、飼い主が世話せねばいけないらしい。

　ぺたぺたと健康サンダルを鳴らして、入室する。白衣の裾がほどけてることに気づく。

  （あとで縫わなきゃな）

「おーい。健二君や。飯行くぞ飯」

　耳元までいって呟くと数字に耽っていた健二が恍惚とした表情でこっちを見た。

「…佐久間」

おまえって、飼われ上手な子だねぇ。