理一さん視点

「魔法使いの名前なんて、知りたくなかった」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０１０．０４．２４．

　問いは、上層部からのものだった。

　手にした通信機は、問題の今日でさえも順調に動いている。

「事態は不明ですが。――マジシャンは、まだ諦めては無いようですよ」

　理一は、答えた。

　主と成るサーバーを扱う会社の名前は――――『Little　Base』と言った。

　理由は、その職務内容によるところが大きい。

　まあ、国を守るための職務だと理解していただけると間違ってないだろう。

　さて、そんな理一のある日のことだ。

　直属の上司から、ある任務を言い渡された。

「――休みをとれ？」

「…そうだ」

　渋い顔した上司は言った。

「――――７月３１日？」

　…申告した通りの休みじゃないのか？

　祖母の誕生日を前に、陣内の一族がそろう通年通りの日だった。

　―――どこが任務なんだ？

　心のうちで、首をかしげた。

「…復唱は？」

「―――YES、SER．２０２００７３１より２０２００８０１までの休暇を頂くことを任務として承ります！」

　敬礼の姿勢は、すでに身体に沁み込んでいた。

「――よろしい」

　…はあああああ。

　渋い顔のままで上司はため息をついて、理一に資料を投げ渡した。

　………で、誰なんですかね、その魔法使いっていうのは。

　ひととおり読んだ資料を見ながら、理一は呟いた。

「―――魔法のごとく、未来を読む、か」

　眉つばながらも、それが実績のある部署のそろえたデータだったことに苦笑いをした。

「通称：マジシャン

　年齢：１７歳（公称）

　経歴：久遠寺高校二年　男子　物理部所属

　・父である小磯健司のもつ株の管理を中学にあがった頃より始める。その独自の勘によって一気に利益を上げる。

　・同時期、数学コミュニティを通して知り合った仲間たちと、その利益によって一つの会社を設立する。（本人はあくまでも相談役兼株主であり、社長は日米国籍をもつジョン・Ｌ・エニスである）

　・設立した会社は、ＯＺネットシステムを利用しないシステム構築を成し遂げた珍しい会社『Little　Base』として有名である。

　・数学チャンピオン日本代表選にて最終予選決勝敗退。

　・高校での友人としては、佐久間敬（同クラス）と篠原夏希（三年Ａ組）がいる。　　」

「―――なぜ、夏希…」

　一族の一人の名前がそこに乗っていた。　

　そして、その経歴のアンバランスさにいろいろと不可解なことがあった。

　いろいろと。

　ふうううううう。

「………怨みますよ」

俺の休日、凄いことが起きそうじゃないですか。

去っていった上司に対して、小言が漏れたのは仕方がない。

はあああ。

ちらり。

手元にある資料をもう一度眺めた。

　・彼は、２０１０年の７月３０日から８月１日にかけて、ＯＺにからむ混乱が生じる恐れがあると主張している。

　・そして、その中心となる出来事は、―――長野県上田市であるだろうとも主張している。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　」

　実家である長野県上田市にある陣内家で、理一の休日が今年もとれたのか心配している母親に、メールをおくるために。

「

　　　　　――――　本名：　小磯健二　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　」

　………こっちでまで、ばらし役はあなたですか、そうですか。

　………いい仕事、してますねえええ。＾＾

（笑顔で殴りたい気持ちを隠そうとしている）

　そして、情報提供もついでに受けてる人。

　理一さんは仕事が出来る人ですよ、間違いない！！

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