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少女の云う言(こと)  ≪武(む)≫

 最後の忠臣蔵、ネタばれあり現パロ。

 自己責任にて閲覧下さい。




 

《武(む)》

 

 

石野かなという少女がいる。

 彼女は昔、生まれる前「可音(かな)」という名を名乗っていた。

 彼女を育てるだめだけに生きながらえていた武士のために彼女は拙い手つきで着物を仕立てた。

 時間のかかったそれは彼女のお守り袋に入っていた移り香を纏わせた。

 それが最後まで彼の武士の伴となっていたことを、彼女は誇りと思った。

 白装束を身にまとい、二度目の駕籠のなかで、彼女は父の遺したものの重さを知る。

 一目とあわずに逝った父は、さぞや立派であったのだろう。

 けれども、ふと思う。

 あなたは己の忠義と信念のために47の、命を負った。

 皆の未来を案じた。

 では、その血を継いだ私はいったい何を負ったのだろう。

 おそらくは、あなたが負えなかった全てを負わされた。

 未来という名の、負を。

 成れなかった浪士の果てを。

 忠義を果たす場所さえ失ったものたちの夢を。

 駆け付ける者たちの足音が、名乗りが、赦しを求める声が告げる。

 命を、ささげさせてくれと。

 嫁いだ先で私は少しだけ振り返る。

 父が私に遺した一番大切で、一番父のものであった存在を。

別れの言葉を読みとり、背を向けた。

もはや、彼岸へしか辿りつけぬモノにかける言葉はない。

 

 一六年を過ごしたあばら小屋をじっと見つめた。

 昨日身に付けた白装束はすでに片づけた。

 今日の私は、武家の姫ではなく商家の嫁だ。

 目の下を腫らした男が云った。

「どうなさいましょうか」と。

 私は言う。

「――全て燃やしてくださいませ」

 燃えた家屋は無へと帰し、再び緑の萌える地へとなるだろう。

 偲ぶ場所など遺す気はない。

 あれが、大義よ武士の誇りよと崇め奉られるのは見たくはない。

 私の知るのは、彼の者の人としての葛藤であり、武士としての屈辱でしかなかったのだから。

 振り向いた先に、ここにも父の遺産があったことを思い出す。

「貴方さまは、亡き父より赤穂浪士の遺族を見届けるようにといわれたのでありましたね」

 これもまた、父の葛藤の末のかたち。

「……は」

 見事にも、全て綺麗にまとめられたこと。

「では、最後までお見届けくださいませ」

 憐れな時代の徒花に、わたしもまた罪を重ねよう。

 

「私の最後の家族も、また赤穂の浪士として逝ったのだから」

 

 最後まで、私の生きざまをご覧くださいませ。

 

 

 

 生きるも死ぬるももはや許さぬ。

 最後に残った父のためだけの武士たちの一人。

 

 ――― 遺される側に立つ身として、最後の一人を簡単に逝かせてなどやるものか。

 

 

 

 

 

 生まれ変わってなお、少女を見続ける少年は言う。

 

「―― 大石さまの姿も気性も知らずとも、姫様はやはりお武家の方でありますな」

 

 咲けば、大輪。

 征けば、劫火。

 

 ――――― 生きるこの世で、凛と立ちいづる姿は。

 

 

                         焦がれし、此の国の武士(もののふ)也。

 

 

            了 by御紋

 

 

 まさかのようなまたかのような現ぱろ。

 これで、孫左衛門(赴任してきた教師とか)がひょっこり現れたりすると、個人的にはすごく面白そう。

 いろいろと文句をいいつつでも大好きみたいな、ツンデレ化する姫様。

 吉右衛(きちえ)はきっと孫左に一生懸命そのフォローをしつつ、胃薬片手に苦しんでそう。

 おゆうさんは、音楽か保険教諭で是非。

 

 

 

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