「時の神は貪欲な狩り人だ。――さては恋も狩るのかい？」

　　　　　　　　　２０１０．０４．０９．

「―――くっそ、なにしてんだよ。交通網！」

　新幹線で東京に着いた後、タクシーで直行しようとした佳主馬だったが、土地勘のない運転手は、事故で渋滞中の大通りしか知らなかった。

「――呪うぞ。マジで」

　そう言いつつも、万札を一枚放り投げた。

「お客さん、お釣り～！」

「それで、ナビでも買え！」

　どこまでも強気な佳主馬だった。

　だれもいないかのように真っ暗なその部屋の窓たち。

　そのことが、どこか胸に突き刺さった。

　玄関の扉には、客を迎えるためのライトがぽつりと点いていた。

「――健二さん」

　ほっとしながら、佳主馬はその家の門扉を開けた。

　夜の空気に響く鉄の音。

　きィィィぃ。

　その音に負けないほどに跳ねる心臓の音を佳主馬は意識しながら、インタホンのブザーを鳴らした。

「―――来たよ、健二さん」

　ごそ。

　暗い家の中で、人が動いた気配がした。

「―――来たよ、健二さん」

　玄関の外から聞こえてくる声は、間違いなく待っていたはずの人の声だった。

「………」

　健二は、応えない。

「――健二さん？」

「………」

　鍵のかかった扉の奥で、人の息遣いの気配がするのに。

　――返事が来ない。

　急ぎはしない。――この扉の奥に健二さんはいるんだから。

　ボクは、泣いてない。

「―――そう」

　冷たいコンクリートの上に、佳主馬は座り込み、人口の灯が射す扉に寄りかかった。

　夜の沈黙は、一つ一つの言葉を綺麗に濾過する力を秘めているような気がした。

「…メール、見てくれた？」

　心の奥でいま言いたい言葉を探すようにして、佳主馬は話した。

「―――みたよ」

　か細いながらも、返事が返ってくる。

　そのことに安堵する。

「どうだった？　」

　ボクの心は。

　次の返事は遅かった。

　もう時間だよ。―――答えを出して。

　そんな風に告げてくれたのだろうか？

　さて、この一時は何をもたらしてくれる時間なのだろうか？

…もうちょっと長引きそうです。；；

[2回]