「恋は愚かだというけれど」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２１０．０２．２８．

「―――」

　出会ったのは、夏の初め。

　変わったのは、夏の半ば。

　――――――愛したのは、いつから？

「―――共犯だっていったのは、健二さんでしょ」

「……さあ？　忘れちゃった」

　くすくすくす。

　薄く嘲りを刷いたような笑み。――――まさか、小磯健二というどこにでもいそうな高校生が、こんな表情を浮かべる生きものだとは、佳主馬だって、思ってはいなかった。

「ねえ？　何回目？」

「――忘れた」

　嗤いながら佳主馬の腕をひくその魔性のような人の問いに、佳主馬はふてくされたような表情でそう返した。

「嘘つき」

　くすくすくすくす。

　これが何回目かなんて。―――覚えているに決まっている。

　溺れるように通い続けた―――この人の元に。

「さあ？　はじめようか？　―――僕のかわいい奴隷くん」

　くすくすくすくすくす。

　なだれ込むように佳主馬のもとへと倒れ込んできた健二を、佳主馬はしっかりと抱き寄せた。

「――ボクは、奴隷じゃない」

　襲いかかるように、健二の身体を押し倒した。相手の胸に顔をうずめるようにして、佳主馬は心の奥に引っかかったその言葉をひねり出した。

　くすくすくすくす。

「――――いいや？　キミは僕のものでしょ？　佳主馬」

「………っ」　

　嗤いながら、佳主馬の胸に手を添えるその人をひどく憎く思う。

　―――これほどに好きなのに、片思いのままの自分を滑稽だと思っているのは自分だけだろう。

『口封じだよ』

　喫煙を見られたその代わりにと、自ら佳主馬に寄ってきたのは健二の方だった。

　分からぬままにその接触は終わり、その人は全てが終わった後に言った。

『……っ。――血が！』

『ああ、初めてだから。―――そんなものでしょ？』

　どうでもいいような顔をして、その人は嗤った。

『ねえ？知ってる？　――――僕はね、嫌いな相手とはしないんだよ？　佳主馬』

　魔性のように艶美で惑わせるその人の言葉に、酔いしれそうになる。

――――戯れにしか、触れることを許してくれないアナタが憎い。　　

[1回]