「政略結婚に異議あり！」⑬‘　　☆　女官長万里子の日記

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０１０．０３．３１．

　私は、ＯＭＣ王国の宮中を管理させていただいております、万里子と申します。

　今日は、改めてわたくしから見た最近のＯＭＣ王国宮中でのお二人の御様子についてを語らせていただきたいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。

　お名前は教えては頂いておりません。

　古式ゆかしい故国である和国の流儀によって、結婚されるまでの女人には名前を隠す風習があるとのことです。―――なんとも、風流です。

　そこで、私たちとしましては「和国の姫君」または「姫様」「姫君」と呼ばせて頂くことにしております。

　もちろん、それも結婚されるまでのことと信じておりますけれども。

　だって、結婚された後は名前を教えていただけると約束して頂いたのですもの。

　申し訳なさそうに、そう伝えていただいた姫様のお顔を見た私としては、はやくお二人に結婚して頂きたい思いでいっぱいですの。

　え？　キングが姫様を呼ばれるときのお名前ですか？

　ああ、それは…。

「え？」

「愛称だったら何でもいいでしょ？」

「――――え、あ、……うん」

　いつもの休憩タイムのことでした。

　キングがそう姫様に言われたのです。

　何故か、姫様はそれを聞いた後、くらくらと頭を抱えていらっしゃいましたが。

「いい名前でしょ？　万里子さん」

「ええ、とても」

　キングが満面の笑みでそう私に聞き返してきたのです。

　私も思い当たることがありましたので、にこにこと笑んでお返事を致しました。

「―――あの、失礼ですが。―――どのような意味の愛称なのでしょうか？」

　珍しいことに、博識な姫様付きの侍女である敬さんがそう尋ねていらっしゃいました。

　いつも姫様のお傍で誠心誠意仕えている敬さんとしては、気になる事柄なのでしょう。

　キングの目の前だということで緊張していらっしゃるのか、若干硬い表情でした。

「―“健やかに、健やかにあれ、我が朋よ”――初代国王の残した言葉ですよ」

「「――――え？」」

「“健やかに、健やかにあれ、我が朋よ。いつか我らは出会うから”――そう言い残した国王の言葉があるのです」

　キングは、その言葉から引用されたのですよ。――“健”が“二つ”で、『健二』さん。

「あ、ああ。――なんだ」

　何故か安堵した表情で姫様が呟かれました。

　だん！！

　いいいてっ。

　そのあと、何かが聴こえた気もしましたが。

「この言葉には、もう少し続きがありまして――――」

「万里子さん！！　それは別にいいよ。言わなくていい！！」

　キングが慌てて止められました。

「――――――はい」

　にこにこと、笑みを浮かべて私はその先を言うことを止めましたよ。

　ですが、キング。

　本当は、私だって言いたかったのですよ？　その続きの言葉を。

　睦まじく、睦まじくあれ、愛しき人よ、これから我らは国を担うから。

　この人の世で、この人の国で、――――我らは、新しい命を育むから“

　…そんなわけで、キングは健二さん呼びします。ええ、一人だけね。

　愛称なのに、本名というこの偶然。さぞや和国コンビはびっくりしたことでしょう。（笑）

　なんだよ、敬だっていっぱいいっぱいな顔してたじゃないかー。

[3回]