「何してるのっ！！　ちょっと貸してっ！！」

　横から、借りてたＰＣを奪われた。

　画面の中では、ぼろぼろに踏まれている仮のアバターの姿。

“なーにやってんの？　おまえさん“

　そう言って、なり済ましの被害に遭った佳主馬のために作ってもらったそのアバターは、抵抗することも出来ずにただ敵に殴られ蹴られて動けなくなっている。

　そして、いまも動けない佳主馬を助けてくれたのは――――――

「キング・ケンジ！！」

ＯＺの英雄。

リスを模したその姿。

その姿の身丈の殆どに達するほどに大きな尻尾。

その身を身軽に操って、たった一蹴りで佳主馬を救いだした。

時に四つ足となり、時に二足となり、時にはその尻尾を使って。――――戦う、英雄。

「あんたが、キング・ケンジなの？」

　驚きの言葉は、跳ねあがるように口を飛び出す。

「――話しかけないで、気が散るっ！！」

　返ってきたのは、真剣な声。

　見上げれば、そこには真剣な表情。

　癖なのか、やや内股気味な正座は先ほどまでと変わりはしない。

　けれど、その表情は――――。

　どこか冷めたその表情。カタカタカタカタとタイピングする音がまたたき、画面の中で動くアバターは容易に敵を捕まえた。

　ツ、とその頬を伝う透明な汗。

　それが、意外にキレイな顎の線を沿うように流れて、顎のところで下へと落ちた。

　ぞくりと膚が泡立つ。

　数学だけを友としてきた佳主馬にとって、これが最初の―――恋。

[3回]