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二次創作、版権に絡んでおります。 やおいが分からない方、嫌いな方は訪れないことをお勧めいたします。申し訳ありません。 pc・携帯両用サイト。 (検索避けスミです)

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もう少しなんだ。

 

物語は、エンドマークを添えられてこその物語だと信じている。

頑張るよ。


「愛に慣れてない健二さんシリーズ」




「溢れた涙に溺れそうになる」

          2010.04.06.

 

 貰った携帯は使われることなく、健二の鞄の中に潜むだけだった。

 ぶぶぶぶ。

「? 携帯、なってんぞ―」

「ああ…、そうだね」

 佐久間に言われて仕方なくそれを開けた。

 ―――開けるべきじゃなかった。

「―――」

「健二?」

 涙がこぼれた。

開いてみれば、そこには夏の終わりの海。

揺れ動く白波が、いくつもの大きな防波堤にあたってはまた揺れる。

動画ではなかったはずなのに、そこから潮騒の音が聞こえた気がした。 

 涙がこぼれた。

 すべての堰が、割れて、破られた。

 

 ――――キミに、逢いたい。

 

 

 

 

 

 開いた携帯にはたった一人のメールだけしか残ってはいなかった。

 当たり前だ。

 だって、誰にも教えてない。

 ―――キミがくれたものの意味を。

 

 

 

 

 

 うるさく鳴いて、歩き回る小鳥たち。

 黒々と種が詰まった大輪のヒマワリの花。

 夏に沸いた温泉の姿。

 しっかりと日焼けしまくったチビギャング達の笑顔。

 見慣れない学校のプール。

 小さな手毬で遊ぶコマ犬たち。

 綺麗に乾いた大きな蝉の抜け殻。

 アスファルトにチョークで書かれた素朴な落書き。

 駅の掲示板の隅。――小さく書かれた「好きです」の一言。

 自分ではない誰かが見ている世界。

 健二は、それをただ、みていた。

 

 健二の心の内側には深く沈んだ穴がある。

 その穴は、とても曖昧で、健二自身にもその底はわからない。

 それは、健二に「仕方がない」と思わせる――諦めを受諾させる影響を与え続けていた。

 けれど。

佳主馬が送り続けたその画像たちは、姿を変えて、その曖昧で空虚な健二の心の穴に飛び込んでいく。

それらはとても優しくて、穏やかで。

 ――健二の心を充たしていく。

 そのたびに、健二の表情はどこか揺らぎ、頬笑みが浮かぶ。

 健二の心は佳主馬の心を受け取って、その満たされないままの自らの心の穴を塞ぐ。

 そんな自分に戸惑いながらも、健二は佳主馬からのメールを楽しみにしていた。

 

 ただ。

 

 

 

 

 

「健二? どうした?」

「―――」

 突如、泣きだした健二に佐久間が声をかける。

「――――――っ」

 溢れていく涙。

「―――――かえして」

「え?」

 健二が泣き声にまぎれて呟いた一言は、佐久間にはよくきこえなかった。

 

『ボクを、返してください』

 

 

 

 

 

 その日の夜、健二は初めて、その携帯をかけた。――非通知で。

 つーつーつー・

 電信をつなぐ音の間、何を話すつもりなのかと自らの行動に疑問を持つ。

 だが。

『―はい』

 その答えがでる前に、相手は出てしまった。

「………」

 口を開けては、言葉を飲み込む、その繰り返し。

 何をしているのだろうかと、脳の後ろ側。

 誰でもない自分自身が苛立ちを感じていた。

『?』

 無言電話に不思議がる気配。

 …もう、遅い。

 ふいにいつもの諦めが健二の心にとり付いた。

 上田での夏。彼が与えてくれた告白はもう無効なんじゃないんだろうか。

 一度として応えを返すこともせず、ただ受流すだけだった自分。

 それを良しとした佳主馬にも、やつあたりに近い怒りを抱きながら。

 だが。

 

『…健二さん? 健二さんでしょ?』

 

健二が何も言わぬままに、相手はそう叫んだ。

 心が沸き立った。

 今一度の涙があふれた。

 誰もいないこの家で、健二だけの小さな世界は構築された。

 

「………」

 

 涙があふれる。

 ああ、やはり。

 ―――キミは、奪い取ったんだと。

 

『今から行くから。 ・・・待ってて』

 

 何を思ったのか、佳主馬はそういうと電話を切った。

 時計を見れば、新幹線はまだ動いている。

 

「――どうする気だろ」

 

 瞼を重くして、こぼれおちる涙を指で押さえながら、健二は呟く。

 そして、腹から大きく深呼吸をする。

 名古屋発の新幹線に乗って、東京駅へ到達するには小一時間。

 それに加えて、ここまでくるにはどれだけかかるだろうか。

 涙はその頃には乾くだろうか。

 

 早く、早く。

 早く、来て。

 

「―――扉を、はやく開けて」

 

 

 

              了by御紋

 

――最終までにはもう一つか二つ?

 よし、ふぁいふぁい!!


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映画「サマ―ウォーズ」が大好きです。
健二さん至上主義。カズケン信者。栄さま神格化傾向あり。――――――です(笑)。

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