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ふわりんさまに捧ぐ!(前)

 壱拾萬HITリクより。
 ふわりんさまのみお持ち帰りOKです。

【 久遠寺タウンOZ物語り(仮)で佳主馬視点。
 ラジオ体操で健二さんを見つけた佳主馬 】


「出会いの締めは、両手で握手!」

         2010.11.04.

 

 1925年3月にアメリカの生命保険会社により健康増進・衛生思想の啓蒙を図る目的で考案された。

 ――それが、ラジオ体操の始まりである。

 

「……どこに笑いの要素があるんだろうか?」

 得意のOZで検索した池沢佳主馬(13)は、動画再生中のPCを見つめながら呟いた。

 

 

 

 8月――学生の夏休み期間。世間では健康を目的に朝のラジオ体操が催されている。

 ここ、久遠寺タウンでもそれは同じである。

 評判は上々。

 曰く。

「朝一の笑いは、健康にいいわね」

「ミニマム正義!」

「ツンツン正義!」

「…若干バイオレンスなので、子供たちには決して真似をしないように言い聞かせています」

 後者は、某教育ママの発言である。

 たしか、ラジオ体操についての感想だったよね?

 そう書きこんだところ、みなは「YES!」と答えた。

 ――― なんなの、この統一された答え。

 池沢家において唯一ラジオ体操には参加していなかった佳主馬だったが、あまりに皆が楽しそうに通うので「ラジオ体操に行ってみようかな」などと佳主馬が発言したのは今朝の話である。

 家族の皆はそれは喜び、今夜は早く寝ましょーね、とまで言い放った。

 遠足前の小学生みたいに扱わないでくれないか?

 もともと、空手の早朝訓練のために早起きをしていた佳主馬にとって、生活習慣の変化は不要なのである。

「―― キミは、楽しい?」

 部屋のなかで、正座して佳主馬を見守っていた佳主馬のアバターがゆっくりとうなづいた。

「――佳主馬と一緒に外へ行けるなら、もっと楽しいと思う」

「…そっか」

 無口なキングがそう言うのか。

 無意味に視線を天井にあげたあと、佳主馬は決めた。

「―― じゃあ、やっぱり行かなきゃね」

 呟いた言葉に、後ろのキングが嬉しそうに耳を揺らしたことは知ってるんだ。

 

 

 

 で、まあ。翌朝の話。

 お出かけ、したわけなんだが。

「おはようございます、聖美さん」

「おはよう、奈々さん。かなちゃんも一緒なのねー」

 うふふー。

 目の前で、佳主馬の母親の聖美は幼児をつれた少女のような女性に挨拶をしている。

 母のアバターである羊のキヨミも、相手のアバターらしき犬(ナナ)と一緒に笑っている。

 きょろきょろきょろ。

 辺りを見回した。――だが、まだラジオを持参しているはずのラジオ当番者はいない。

 妊婦であるはずなのに行動力はある母が、喜んでその日の内に役場で貰って来たラジオ体操の参加カードは白紙のままだ。

 これに判を押してくれる人は、まだ来ていないようだ。

「あら、まだ健二くんたち来ないわね」

「寝坊かしらね?」

「俺、初期ケンジが時計の針いじったにビール一本!」

「じゃあ、俺は仮ケンジがおねしょして応急処置してたにサラミセット1つ!」

「うーん、健二が忘れ物して、家探しちゅうとかどうよ?」

 判子とか靴下まちがえとかそんな基本な落ち。

「「それはありそうだが、枠がでかすぎ!」」

 もうちょっと限定しようぜー。

 賭けの対象にするにはおおざっぱだろう。

 

 誰も慌てる様子はない。

 ちなみに、ラジオ体操が放送されるのは4分後だ。…大丈夫なの?

 

 

 ぎゃああああああ、遅刻するううううう。

 馬鹿ですね、ラジオ壊れたかと大騒動した揚句、乾電池が切れててしかもコンビニ寄るための小銭がなくて二度目の自宅Uターンなんて、あああ、さすがパパです。―――莫迦ボンなんですね。

 止めろ、固有名詞だすな。つか、なんでおまえが知ってるその話!

 ははは、世の中って不思議がいっぱいなんですよ、パパ知らないんですか。

 知ってるよ! このうえなく、この夏で思い知ったよ!!!!

 健二さん、あと3分です。

 って、ぎゃあああああ。バイト代がああああああ。

 

 ――― まさか、あそこから黄色いのと黒いの抱えて走ってきてるあれが、噂の【ラジオ当番】?

 顔がひくついた佳主馬だった。

 

 

 

「ぎりセーフ!」

 朝のラジオ体操当番という名のバイトは2分前に到着した。

「おはよう、健二くん、初期ケンジくん、仮ケンジくん」

「健二、仕事は5分前には到着してなきゃだめだぞ―」

「判子、ちょうだーい」

 笑顔で待ってた人々が、いっせいに挨拶をした。

 息切れ中の細い身体の高校生は、いまは答える余裕はなさそうだ。

 かちゃかちゃかちゃかちゃ。

 携帯ラジオをいじり。

 乾電池をパックから開けて、交換。

「健二さん、あと1分です」

「――カウントします? 55.54、53、52…」

 ぶつんと音が鳴って、髪の毛が素敵に跳ねてる当番はホッとした表情を見せた。

 後ろにひかえている黄色のブサ可愛いリスは素直に安堵したようだが、黒い耳と同じ色の腹を持つに違いないもう一人のアバターは面白くなさそうに舌打ちをした。

 その更なる後ろで、ラジオ体操の放送時間に間に合うかどうかで賭けを成立させていたらしい成人グループからも、がっかりしたような嘆き声が聞こえたのはどうかと思うが。

 この町の人って、賭けゴト好きすぎるよね。

「おはようございます、皆さん!! 今日はすいませんが判子は体操の後に押させていただきますね! ――周りの人との間隔をあけて、並んでくださーい」

 冷や汗を首から流しつつ、猫背な高校生は頑張ってる笑顔で告げた。

「並んでくださーい」

「22、21,20、19…」

 マスターの言葉を重複した仮ケンジはともかく、まだカウントしてる腹黒初期ケンジはもう放置しとけばいいと思います。

 

「いいから、お前らも並んで! 離れて、な!! 」

 

 何故か2体もアバターがいるという不思議な人物は、そういいながら右と左に自分のアバターたちを並ばせた。

 とりあえず、体操は始まるみたいだけど。

 キングがわざわざ一番前の場所(黄色の真後ろ)についてるのは、全力でスル―しとけばいいのかな、ボクがやるべきこととしては。

 

 

  ――――――→ 中編 へ

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活字中毒の自覚ありです(笑)。
映画「サマ―ウォーズ」が大好きです。
健二さん至上主義。カズケン信者。栄さま神格化傾向あり。――――――です(笑)。

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