それでは、背筋の運動から～。

　ラジオ体操は、第一と第二があるのは有名であるが、第三と第四まで存在していることは調べないと佳主馬も知らなかった。

　が、小学校時代に通わされただけあって、身体はちゃんと覚えていてくれた。

　目の前の黄色と黒と、不本意ながらの紅白が何事もなく体操をしていることに、安心する。

　たまに、なんだか眼に見えない何かが空気を散っている気がするのは気のせいだろうか。

　第一が終わって、軽快な音楽に曲が変わる。

　ラジオ体操第二である。

　両肩の運動です、肩の上げ降ろしをいたしましょう～。

「…ん？」

　ここで、なぜか空気が変わった。

　前方正面においては、殺気にも似た緊張感が漂い出す。

　そして、後方では。―――ニヤニヤ感が増えだした。

　なんだろう、お手並み拝見とでもいうような、この観光地的な雰囲気は。

それでは、いーち、にー、……。

「さーん、しっ！！！」

「ごうっ！　六、しいっちっ、はっっちぃぃぃ！！！」

　警戒な、いや軽快なリズムと同時に、事は起こった。

　正面前方左より、右の黄色アバター（仮ケンジというらしい）に襲いかかったのは、黒色のアバター（腹黒初期ケンジというらしい）。

　その飛び跳ねる力は、まさに動物的。野生の獣かきさまは。

　来襲といいたくなるその勢いに、黄色のミニマムはきづきもせずに腕をゆらして飛び跳ねている。（警戒しろ仮ケンジ！！）

　腹黒な相手は、笑顔で飛びかかるがそこに新しい相手が！

　そう、当方の紅白アバターことキングカズマのカウンター攻撃である。

　ががががっ！！

「――またですか」

「―――させない」

　数泊の間の間に、お互いの手足が動いていた。黒い攻撃は、白い防御によって封じられた。―――　どんな武道大会ですか。某異星人たちによる天下●武道●か。

　そして、周りからは感心の声というかどよめきが。（……それでいいの？）

　きらん、と火花が散っていた。間違いなく。

　次は、腕をぶらぶらする運動～。

　ぶらぶら～、ぶらぶら～。

　というよりも。

　ぶぎゃぎゃぎゃぎゃ、ぶぎゃぎゃぎゃぎゃ。

　――ああ、何だろうか。この擬態音。

　横に揺れる腕のひねりを生かして、仮ケンジの頭を狙った黒の攻撃を、白の前後に揺らした長い腕が、しっかりと跳ねかえしている。

　…黄色、（可能なら）逃げろ。いまおまえは左右前後少しでも動いた瞬間に、潰れる宿命を背負っている。

　ちなみに、逃げるときは匍匐前進をお勧めしておく。

　遠い目をした自分の目線が虚ろなものだったということは、帰宅途中に羊アバターのキヨミに指摘された。

　……言うな、思い出したくない。

　にしても、あのマスターもいつまでも放置するつもりなのか。

　背後の二匹のアバターの攻防に気づいているのかいないのか。

　寝ぐせの残る高校生は、一心不乱にラジオ体操をするばかりである。

　現実逃避をしている可能性もあるが。

　ぶぎゃぎゃ、ががが、べしばし、すってーはいてー休憩タイム、べしっ！　ははは、油断大敵ですよ、このっ、腹黒が！、……。

「……なにかなあ、このコント」

　そして、そのコントの片割れが自分のアバターであることがすごく虚しい。

　ねえ、チャンピオンベルトはどこに返上すればいいのかな？

「あらあら、今日は意外に長引くわね」

「そうだな、最後までとは珍しい」

　周囲で一緒に腕を曲げたり伸ばしたり、跳ねたりとしていた久遠寺タウンの町内会の人々が呟いていた。

　なに、いつもはもっと早くに黄色が潰されて終わるの？

　どう見ても、紅白の我がアバターは後手にまわるだろうことが理解できていた。（修行させようかなあ、戦闘パターンの）

　ぷぎゅる。

「ああっ、ケンジさん！！　大丈夫！！？」

「捕りましたよ―――――――――――！！　」

　汗と涙と唾液が飛んだ。

　本日の勝敗は、腹黒黒スケの独り勝ち。

　楕円形の黄色い顔をその小さな靴で踏みにじった姿は、実に嬉しそうな笑顔でした。

　――　ああ、天性のサドだなあ、あのアバター。

　心から、納得した。

 
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