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41歳健二さんのカコバナ!⑦-8

カ・コ・バ・ナ。

―――いつまで、過去にいるつもりなんだろうか、41歳健二さん。・△・し


 

    8 

 

 

 約束を、交わしましょう。

 辿り着いた答えを求めている。

 あなたと二人。

 ―――― 共犯者、となりましょう。

 

 

 

 

 休眠にも似た沈黙の中、研究室のスパコンが演算中です。

「――― あああああああ、ねむい」

 呟く健二の手元には、愛用のマグカップ。

 真っ黒なカフェイン飲料がの空っぽの胃に滲みます。 

「寝ればいいじゃない、素直に」

 さくっと言われた。容赦ない。

「うう、だってまだ演算終わってないんです、涼さん」

 ちなみに予定では明日の朝までかかるはずです、この演算。

「――寝てればいいじゃないの、演算終わるまで」

 むしろ、その後の検算と分析にこそあんたの無意味に数字しか詰め込まれてない脳味噌がはたらくときでしょ?

 元嫁が容赦ありません。――家栽に訴えるべきですか? って、もう別れてるから無理だ。

「いやだああ、俺の研究があ」

「…ねえ、健二さん? 私、今とてもあなたにききたいことがあるの」

 勿論、答えてくれるわよね。

 

 …ぎくり。

 

 元嫁が怖ろしい程の色気のある声を出してきた。―――緊急脱出を要請したい!

「な、なにかなあ…」

 聞きたくないけど、目の前の鬼が「聞けやゴラァ!」というオ―ラを発していたため、つい聞いてしまった健二だった。

 

「快くあそこの寝袋に横になるか、私の身体で快く神様に直にお会いしに行くか、どちらがいい?」

 

「……… 快く寝袋に籠ります」

 むしろ、引き籠らせてください。

 

 鳩尾にピンポイントで踏み込んでくる攻撃的な女性といえども、女に反撃が出来る性格に自分を直しきれなかったことが俺の敗因でしょうか―。

 涙目で、ごそごそとマイ寝袋に潜り込みました。――― 今度洗おうコレ。ちょっとカビ臭い。(涙)

 

 

 

 

 研究はもう半ばを超えた。

 基礎研究から始めたその結果を、学会にではなく企業へと売り渡すことで、研究資金は循環している。

 大奥さまから頂いた金だけでは昨今の最新鋭研究はできません。開発費って、そらすごいのでね。

 研究しては売り払い、その報酬で次の研究をする。――自転車操業って知ってる?

 そんな生活を送っています。

 幸いなことに研究内容は企業の方針に沿った内容だったらしく、買い取り手も順調です。

 うん、持つべきものは趣味仲間。―― 目に見える形で世界に定着していくOZを傍目で眺めていますよ。

「――― 最近は、OZの利用者も増えてきたな」

 目覚めの一杯が熱くて飲めません。

 ふーふーしつつ、テーブルにマグカップを置いた。

「今の利用者率はネット利用者の35%だったかしらね? ――民間の間では人気なんだけどね」

 理想としてはまだまだってところなようよ。

 隣で涼が呟いた。

「仕方ないんじゃね? 逆に言えばまだ詰めるのびしろがあるだけに、急激すぎる利用者の増加は運営現場的にはのぞましくない」

 ニーズにあわせた細かな対応手順っていうのは、ゆとりがないと決定的なミスを後に遺すことにつながるからな。

 演算の終わったデータを落としながら、返事した。

「誰の受け入り?」

「ご本」

 そっと指差したのは資料棚。漫画でよくわかる経済の仕組みうんちゃらとか書いてある薄い本がありました。

「……」

 苦悩のため息は地球のマントルまでぐらいなら届いていそうだが、どうだろう。

「―― それで、やっぱり作るの? 」

 ハッキングAI。

 尋ねたのは、俺の決意の確認のためかい?

「ああ、作るよ」

 まだ熱いコーヒーを一口啜り込む。

「作らなくちゃ、前に進めない」

 だったら、俺は笑顔でこの意思を表明しよう。

 在ってはならないモノを作って、それからソレを制御する術を学ぶ。

 頭の中だけの理論では意味はない。

 繰り返し実証して実行して、そうしてようやく、意義は生れるのだから。

「俺は、世界を護るために世界を壊すAIを創る」

 震えた肩をみられただろうか。

 怯えた唇が食んだだろうか。

 それでも、視線だけは揺らさずに俺たちの仲間に表明する。

 電子の世界を規制するために最適な手段を見つけるために。

 最善をもたらすために、最悪を知りつくすために。

 ――ハッキングという名の犯罪のためのAIを創る。 

「 それが、学者ってもんだろう? 」

 より安全な爆薬を創ろうとしたのは、アルフレッド・ノーベル。

 掘削工事のためのニトログリセリンが運搬事故を起こすのを防ぐために開発されたダイナマイトは、戦場でその被害の数百倍の犠牲を生んだ。

 彼は死ぬまでそのことを後悔していたのだけれど。

それでも、きっと誰かがいつかはそれを生んだんだろう。

 世界のために、安全のために。

 

―― 誰かを生かしたくて。

 

「…男ってやっぱりバカだわ」

 これだから、信用なんない。

 涼が手を差し出してきた。

 手のひらの中には、小さな飴玉。 ―――俺が好きなソーダ味だった。

 

「 夢の中でうなされてまで、そんなこと決めるもんじゃないわよ 」

 

 口の中に転がした飴は、上田で過ごした少年時代の味がした。

 

 

  ―――――――→     へ

 

 ノーベルさんは北欧出身。彼の故郷であるストックホルムでは、矛盾の多かった彼自身が書いた遺言のなかで、最後に書かれていた一文の遺言が毎年履行されている。(ウィ●さん参照)

 

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映画「サマ―ウォーズ」が大好きです。
健二さん至上主義。カズケン信者。栄さま神格化傾向あり。――――――です(笑)。

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