「　生まれたことを祝おう　」

　全てが終わった後、いい知らせが届いた。

「――おばあちゃん、目覚めたって！！」

　壊れた敷地内の清掃に勤しむなか、一番初めに復旧した電気のおかげで、それはみんなに歓声をもって迎えられた。

　神様の生まれた日。

白い建物のなか、その人は浴衣のままで、休んでいた。

「―――なんだい、皆して」

　まだ掠れる声のままに、栄は言った。

「――おばあちゃん、ってば…」　　

　万里子がそれに返事した。

「――ほら、残り時間は２０分ですよ―」

　容赦なく、時間制限があることを知らしめたのは、聖美さんだ。

　看護師魂が、絶好調です。

　そうっと、並んで。

「…せーの！」

　若干ずれるのも愛きょうという、皆一緒で歌う誕生歌。

「「「　ハッピー、バースデイ、おばあちゃん！　」」」

　涙も交えながら。

　皆で、今日を生きてることを――寿いだ。

「「「「　９０歳、おめでとう！！　」」」」

　特別だよ、と許可を貰っての誕生会。

「――――健二さん」

　時間を惜しみながら、皆が去るなか。

「はい…」

　管に繋がれた手が白く、それでもその人の顔色はいいことに安心した。

「――――ありがとう」

　感謝を述べられた。

「…家族を、守ってくれてありがとう」

　涙が、一筋落ちていた。

「いいえ、いいえ」

その幾重にも重ねられた思いを受け止めながら、健二もまた涙を零した。

「オレは、俺の望みをかなえたかっただけです」

　健二の望み。

「　生きてください　」

　それだけが、望みだった。

　永遠でなくていい。

「　貴女の傍らで、生きる道を探りたかった　」

　二日だ。

　その時間の短さと。

「―――私が、もう残り少ない命だとしても？」

　栄の主治医として、万助は語った。

「…生きることは辛いこともあるから」

　それは真実。

「――生きるための道標になってほしい、と」

　すがりついた、愚かな私を許して下さい。

　白い病室のなか、神様に祈ったものが一人。

　懺悔の声は、神様に許されて。

　今日も、空は快晴である。

《――――――世界を、ありがとう》

　　　了　ｂｙ御紋