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6月の聖地におけるオンリー「ぼくらの決戦前夜」にて、無料配布した中身です。
新刊だった「OZの森で会いましょう」の番外でした。
どうぞー?
新刊「 OZの森で会いましょう。 」―――番外編
「強かった王様と生きたかった子リス」 2010.06.01.(再編集)
――――どこへでも行くといい。お前に、この地に住まう資格はない。
忘れられぬ、過去の呪縛。
OZの森のなかを、風が渡る。
木々の間に、ぼろを被った小さな姿が見える。埃だらけの姿。――――ほつれたフードの下からは、黄色い顔がみえた。
――――疲れた顔。
森のどこかから拾ってきたような、裂き木の棒きれを杖の代わりにして、ただよろよろと歩いている。行き先も分からないままに。
ぱんぱんに膨らんだ下肢は、いかにもむくんでしまっていてつらそうだった。
毛羽立った、その汚れてしまっている黄色い毛が、そのモノを十分に休ませていなかったことを伝えていた。
歩く先に、草原が見えた。
「キングだ!」
「キングが闘うぞ!!」
どこからか、ざわめきが森の中を渡った。
声と周りの気配に、びくりと体を震わせてから、仮ケンジはその草原へと向かう。
よろよろと、その肢をふらつかせながら。
風が草原を渡っていた。
風にたなびく緑の草に囲まれて、何体ものアバターが立っている。
中央に立っているのは、たった一人のアバター。――キングカズマ。
いつもの通り。少ししかめた顔つきのままで、周囲を囲むモノたちの姿を見ている。
まるで、相手との距離を測って、戦闘への興奮を隠すように。
右・左・そして。
戦いは始まった。
駆け始めた戦士たち。
――一人目の戦士が自らを鼓舞するように獣じみた掛け声をかけて、キングカズマへと飛びかかっていく。
―――うあああああああああああああああああああ。
全てを見ながら、微動もせずに立っていたキングカズマの身体が、相手の武器が体に触れようとした瞬間に消えた。
―――かは、っ。
飛びかかっていった一人目の戦士の後ろに、キングカズマが立っていた。
しかめた顔つきは、そのままで。
たった一瞬で、一人目の戦士のアバターの首に一撃を与えたのだ。――――戦闘不可能になるほどのダメージを与えて。
ざわり。
並んでいた戦士たちの、体毛が逆立つ。
見切れなかったキングの動きに、恐怖と興奮を感じて。
仲間たちが、合図を交わす。
――一対一は無謀だ。
知っていたはずのキングの強さに、連携を組むことを選んだのだ。
じりじりと寄っていく相手の意図を知ったか知らぬか、キングが動き出す。
たっ!
駆けだしたスピードは、キングの方が早かった。
連携を組むタイミングさえもずらされて、一瞬で二体のアバターが倒れていく。
そのながれのままに、残った二人のもとへと駆けよるキング。
ようやく、キングに刃をむけて、二体のアバターもまた、飛びかかる。
がしっ!!
キングの組み合わされた腕の上で、二体のアバターの持つ武具が交差した。
力任せに、キングの身体を押しつぶそうと二体のアバターは力をかけていく。
「「せやあああ!!」」
最後の駆け引きだと、本能が知っていたのだろうか。
真剣な表情で、二体のアバターはキングを倒そうとする。―――――必死な表情で。
ぐぐぐぐぐぐぐ。
追い込められる、キングの腕。
徐々に、キングの身体へと食い込んでいく相手の戦士たちの武具。
けれど。
仮ケンジは、丘の上にある巨岩の上からそれを見ていた。
「あああああ、やられちゃうよ、あのヒト!!」
キングの名もしらないままに、たった一人で闘っている相手を。――本当に心配したのだ。
焦りながら。
――見たくはないんだ。あの美しい戦いをするモノの敗北など。
ひどく心が騒いでいた。
先ほどまで疲れ果てて凍りついていたその表情が、どこか生気を帯び始めていることに仮ケンジは気付かない。
草原の戦いは続いている。
追い込まれているキングの姿に、見守っていた観衆たちは、沈黙しながらもざわつきはじめる。
相手の戦士の武具が、キングカズマの白い長毛を、わずかに斬った。
「ああ!!」
見つめる全てのモノたちの声が響いた。
その瞬間のことを、忘れられない。
しかめ顔のままに、闘っていたキングの顔が。
闘いながらも、何かを睨むようにしていたキングの顔が。
ふいに。
―――――――牙をむいて、哂ったのだ。
「 はっ!! 」
嬉しげな表情のままに、キングは二体の戦士たちを跳ねのけた。
いまこそ狂喜の瞬間であるというかのように、キングは戦いを蹂躙する。
振り上げた長い肢。
くるりと跳ねのけた相手の姿を追い求めて、キングは戦場を君臨する。
武具も持たぬ姿のままで、キングは。
闘いこそを、楽しんでいる。
「う、あああああああ!!!!」
戦いは終了する。――――――常勝を権利とする、唯一の王を称えながら。
草原の風が吹く。
もはやそこに立っているのは、キングカズマただ一人しかいなかった。
「勝った、の?」
戦いの終幕を、見取った仮ケンジは震える声で呟いた。
まだ信じられないという思いを、裏に秘めて。
へたへたへたへた。
先ほどまでの興奮で、ロクに残ってもいなかった体力を摩耗したことに仮ケンジは気付いた。
萎えてしまった足に力は入らず、もう動けそうもない。
「―――――すごい、なあ」
呟いてしまった言葉に、キングへの尊敬と、憧れ。
それから。―――比較して顧みた自分への落ち込みが、混ざっていたことは否めない。
―――――あんな風になれたなら、僕も、あの地で生きていけたのだろうか。
放逐された故郷を思い出して、仮ケンジは笑った。
「だけど……。ボクはもう駄目だなあ」
仮ケンジは呟いた。
もはや立つことも出来ないほどに弱まった放浪者。
辿り着くあてさえもない、孤独の旅。
「ああ―――――生きることは難しいね」
お母さん。
口の中で呟いた一言は、もう誰も知ることはないのだろう。
死が見えたのだと、仮ケンジは思ったのだ。
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映画「サマ―ウォーズ」が大好きです。
健二さん至上主義。カズケン信者。栄さま神格化傾向あり。――――――です(笑)。
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